ミッドナイト・ヴェノム



*





「弦くん、大丈夫?」



「うごごごごご……」



「弦の口から詰まった排水口みたいな音がする……」




少しずつ暑くなってきた初夏の中。



学校ではもうすぐ文化祭というところで、弦くんは机に突っ伏して死にそうな顔になっていた。



そんな弦くんの口から飛び出る奇妙な音に、怜悧は半分引き攣った顔で苦笑いしている。




「期末テスト、数学半分取れなかったら補習、かあ……これだと、夏期講習後にみんなでラーメンとかは無理になっちゃうね」



「補習嫌だ!!でも微積の単元テストで10点しか取れなかった俺が、どうやってそんなに点数取るんだよぉぉ!」



「それは大声で叫ばない方がいい気が……」




確かに、自分の数学の有様を大声で叫んでいるさまはとても愉快で、同時に哀れだ。



弦くんの数学嫌いも重症だな。



それに先週はハンドボールの大会だったから、それまでは部活に集中してて勉強進んでなかったみたいだし。




「みんなで夏休みを過ごすためにも、みんなの補習は全力で回避しないとね」



「ああ、そうだな」




ということは。



私と花奈は視線を交わし、うんと頷き合う。



怜悧ともアイコンタクトを取り、そして弦くんに大丈夫!と笑いかけた。




「みんなで勉強会をしよう!」



「えっ!!いいのか!!」




途端に顔を上げ、目をキラキラと輝かせる弦くん。



とっても嬉しそうな顔だ。なんだか眩しいなあ。




「もちろん。弦くん含めたみんなで遊びたいからね」



「そうそう!」




その言葉に弦くんはとても嬉しそうな顔をした。今にも泣きそうだ。




「なら、俺の家来いよ!結構広いからスペースには困らないと思う!」



「そうだね。勉強教え合うなら図書室だとうるさくなっちゃうかもしれないし」



「私もいいと思う。あとは花奈が許可を取れるかだけど……」




私はそう言って花奈をちらりと見た。



実際は私が裏から手を回す予定だが、それにしたって花奈の意思確認は重要だ。




「もちろん、絶対取るよ!」



「よし、お願いね!」




嬉しそうに笑う弦くんと花奈の顔を、私は微笑みながら眺めた。



こうして平和な1日を過ごすのは何度目だろうか。



平穏という幸せを疑似体験してもこんなに安らぐのなら、きっと真の平穏を手に入れたらそれはもう、幸せなのだろう。



……なーんて。花奈や弦くんの素直さや笑顔に触れていると、いつも以上に感傷的になっちゃって困るね。




「えへへ。みんなとの勉強会、楽しみ……!」



「だな!トランプとかもやろうぜ!」



「弦??」




早速本来の目的を忘れてカードゲームを楽しみにする弦くんを嗜めながら、みんなのニコニコ笑顔を見つめ続ける。



そうして私たちは、また青春を重ねていく。