「がっ⁉︎」
銃のグリップの部分で相手の鳩尾を殴れば、相手は私に手を出す前に気絶した。
怜悧の方も片付けたようで、退屈そうに男を踏みつけていた。
「怜悧、こいつらどうする?」
「んー……」
怜悧は考えながらしゃがみ込み、男の髪を掴んで顔を持ち上げる。
そして首を傾げ、雑に手を離した。
「持ち物に有用そうな手がかりがなかったらほっとこうか。こいつらに興味ないし」
「りょーかい」
怜悧の言葉に頷き、私は気絶した男の持ち物を確認する。
捨て駒だったのか、めぼしいものはないようだった。
花奈や弦くんとさらに仲良くなってからしばらく経つ。
もうすぐ文化祭があるということもありみんなが浮き足立つ中、花奈を狙う海外マフィア――エルツァーノファミリーに動きがあった。
今回がその「動き」だ。
私たちが花奈を守っていることに気づいた彼らが、私たちを先に排除しようとしてきたというわけだ。
だが今回は一回目――つまり実力を見る段階なのか、未熟な捨て駒が大量に送られてきただけだった。
「……」
この程度じゃ、私と怜悧の敵にはならない。
男たちを撃つまでもなく、銃で殴っただけで終わってしまった。
「今回は張り合いなかったね、怜悧」
「まーね。でも次は退屈しのぎにはなるんじゃない?」
怜悧の言う通りだ。
今回失敗しただけでエルツァーノが止まるとも思えない。また敵は私たちを殺しにやってくるだろう。
だがきっと、花奈には手を出さないはずだ。今花奈の暗殺を企てて失敗すれば、この街への進出は難しくなるだろうから。
だから今は、こいつらを片付けていればいい。
「それにしても、エルツァーノも物好きだね。こんな不安定な街に目をつけるなんて」
「その『不安定』に利用価値があるからじゃない?ここでなら、取引はファミリー本部よりもリスクが小さいし」
街を支配するのは難しい、が、支配したら莫大な利益を得ることになる。
だからいつもこの街は狙われていて、不安定で、こうやって裏社会が蔓延ることになる。
これはきっと変わらないだろう。ここは永遠に危険なのだ。
「花奈もかわいそうだね。こんな場所に、あんな立場に生まれて」
「そうだね、それに――……」
私はスマホを取り出し、とあるスクリーンショットを開いた。
これはこの間、西宮会が盛大に会長の誕生日会を開いている間に入手した、西宮会内部での会議記録だ。
これは、花奈がパーティーの詳細を話してくれなければ得られない成果だった。
これだけでも、わざわざ危険な依頼を受けて花奈と仲良くなった甲斐があるというものだ。
そしてその記録には、こう書いてある。
『西宮 花奈の利用時期とエルツァーノファミリーへの罠について』
……花奈は、愛されてなどいなかった。
花奈を彼らが甘やかしていたのは、全ては西宮会の敵に「花奈は特別な存在だ」と誤認させるため。
まあはっきり言ってしまえば、花奈は囮なのだ。
ただし、会長は花奈を囮にするつもりではあれど、生贄にするつもりはないようだ。
私たちにわざわざ花奈の警護を頼んだのなら、ただエルツァーノに捧げるために利用する命ではないはず。
「もう少しだね」
「うん。もう少しで西宮会の思惑がわかる」
そうすれば、私たちの最終目標にまた一歩近づくことになるだろう。
というかもう大部分は憶測できるけれど、まあ、今回は慎重に慎重を期すべきだ。
だからもうちょっと調べないと。
「にしても。ずっと大好きな居場所の西宮会にも、最近やっとできた友達の私たちにも利用されてるだけだなんて、花奈はつくづく不運だね」
真綿に包まれるように育てられ、その結果西宮会というヤクザの非道さすら見えない盲目になって。
私たちみたいな人間に利用されるのは、その盲目ゆえなんだろうか。
今更慈悲を与えるつもりはないが、やっぱり彼女には同情するよ。
私がそう言うと、怜悧は何も言わずにゆっくり頷いた。



