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「へえ。それじゃあその海外マフィアは手をこまねいていると?」
『その通りだ。突如花奈の周りに現れた二人組を警戒しているあたりは、流石の危機管理能力と言うべきだろうな』
その日の夜。
私は、花奈を護衛するという依頼をしてきた相手――花奈の父である西宮会の会長と電話をしていた。
お互いの定期報告という名目だが、学校での花奈の様子を伝えることがほとんどだった。
だがここにきて、ようやく有用な情報を掴んでくれたようだ。
「それはそうかもね。どうりで移動遊園地に行っても射線が通ってても撃たれないわけだ」
『お前たち……それを確かめるために、花奈が観覧車に乗るのを許しただろう』
「なんのことー?あれは花奈が望んだから乗せただけだよ」
まあ、学校でも帰り道でも少しも敵意を感じないのに違和感を感じてはいた。
だからわざわざあんなに目立つ場所で、簡単に撃てるシチュエーションまで作って、海外マフィア――エルツァーノが今「暗殺を実行しようとする段階にあるのか」確かめようとしたのは、その通りだ。
だが西宮会の凄みに素直に頷くわけもない。実際花奈は観覧車で満たされたみたいだし、一石二鳥だろう。
あそこでエルツァーノが花奈を撃たなかったのは、すなわち今は「暗殺をする段階にない」ということ。
おそらく、花奈といつも一緒にいる私たちの正体を探っているのだと思う。
弦くんについては、彼の情報やら身の回りやらを調整しておいたから、わざわざ人質にとるようなことはしないはずだ。
『だが警戒は引き続き行なっておけ。いつ暗殺を開始するかわからない』
「はーい、依頼主さまの仰せのままに」
私たちだって、ここで高校生活を一時中断、なんてことするつもりはない。
むしろ今のうちに花奈と仲を深めて、西宮会についての情報を喋ってもらわないと。
でも、もしかしたら西宮会本部からも何か抜き取れたりするかも?
「ところで依頼主さま、あなた、花奈をなんで守ろうとしてるの?」
ちょっとだけしかけてみようと思って気になっていたことを聞いてみると、すぐさま電話に沈黙が流れた。
会長の少しだけ荒れた息遣いが、小さく漏れる。
これについて聞かれたくなかったのか、私が踏み込んだのが意外だったのか。
どっちでもいいが、会長は動揺を隠しきれていない。
『……なんの話だ?』
「花奈を守るのは親子の愛情だ、って言うならそれでも別にいいけど、それだけなら花奈を無理矢理地方にでも切り離せばよかったんじゃない?」
花奈は裏社会のなんたるかをわかっていない。
それは、花奈を近くで見ているはずの会長――父親が一番わかっていることであるはずだ。
なのに花奈と離れようとしない。花奈の意識を直そうとしない。
本当に娘を案じる父親なら、最初から自分と切り離して育ててもおかしくなかった。
それに、命を狙われ始めた時点で遠い地方に送っておけば私たちだって雇わずに済んだ。
それを「娘と離れたくないけど守りたいから」って説明するのは、流石のヤクザでも無理がある。
『……それはお前たちには必要のない情報だ』
「ふーん。まあいいや、定期報告は以上ってことで。それじゃ、また一週間後に」
ぷつり、と電話を切った。
やっぱり素直に話してはくれなかったか。でも……。
わかったことは、ある。
『…… 私はこのままこの学園の大学に進学するつもり。パパやみんながいるし』
『パパや構成員のみんなは可愛がってくれるし』
『……それはお前たちには必要のない情報だ』
「……あーあ」
西宮会の会長――花奈の父親が、花奈をどんなふうに扱おうとしているのか。
それは、回答を濁したあの言葉と、それから会長の動きから簡単に予想できた。
「可哀想に」
……まだ、頭の中にある予測は仮説に過ぎない。
でも、この「仮説」は、今まで感じてきた疑問を全て解決するものだ。
確証とまではいかないが、信頼性は高いだろう。
不運だなあ、花奈って。
『あっはは……運が悪いね、私たち』
……私たちと、同じだ。
いや、同じどころか、私たちよりずっと可哀想。



