「あなたのことはもう忘れることにします。 探さないでください」〜 お飾りの妻だなんてまっぴらごめんです!

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「え? お姉様が?」

「ああ。書き置きと離婚届が私の机に置いてあった」

「そんな。家出をしてどこに行くというんでしょう。お姉様ったらバカね」

「君の家の領地ではないのか?」

「パトリック様。誰か手引きをした者がいない限りお姉様お一人で領地まで辿り着けるとは思いませんわ。うちの領地までの距離、ご存じでしょう?」

「まあ、そうだな。屋敷から消えたのはセリーヌだけだ。侍女も侍従も誰一人欠けていなかった。供も連れずに一人でそんな遠くまで行けるとも思えないか」

「それよりも。お姉様ったら身の回りの宝石類は持ち出していらっしゃった? それをお金に換えていらっしゃったらそこから行方を追えますわ」

「そうだな。とにかくそのあたりは警護署に届けておこう。我が屋敷から盗まれた高価な宝飾品を売りに来た不審な人物ということであれば、役所も真剣に捜索するだろうさ」

「でも、どうして。パトリック様はどうしてそんなにお姉様に執着なさるのです? 愛してなどいなかったのでしょう?」

 黙り込むパトリックの顔を覗き込むようにして。

「もう、いいのではないですか? お姉様が離婚届を置いていったのなら正式な離縁ができますわ。わたくしが後妻になれば、我が家とアルシェード公爵家との関係も壊れませんし」

 とそうにこりと笑みをこぼすマリアンネ。

「いや……。あれにはまだ使い道があるのだよ。わかっておくれマリアンネ。私が愛しているのはあれではなく君なのだから」

「いやだわ。あれ、だなんて。パトリック様。信じていますわ」

 パトリックの胸に頬をよせ甘えて見せる。
 その瞳の奥にはしかし甘えて見せる姿とは裏腹に、邪な光が映っていた。