ランチ放送室の消えた一曲

その日の午後、私は透を見つけて、廊下で捕まえた。
透は何事もなかったみたいに歩いていたが、私がUSBを差し出すと、耳が赤くなった。「これ、あなたでしょ」
「…返して」
「返さない。むしろ流す」
「やめろ!」透は必死で止めた。
私は笑いながら言った。「じゃあさ、こうしよ。明日は普通に音楽流して。
その代わり、月に一回だけ“昼休みの音楽”やる。
曲じゃなくて、昼休みそのものを短く編集してさ。題名つけて」透が目を丸くした。
「…怒ってないの?」
「怒る理由ない。面白いし。ちょっと、びっくりはしたけどさー」透は少し考えてから、小さくうなずいた。「じゃあ、題名。何がいい?」
「うーん…」私は昨日の無音の教室を思い出した。
音楽が消えたのに、みんなは普通に笑って、食べて、しゃべっていた。
それって、実はものすごく良いことだった。「『放送できなかった一曲』」
私が言うと、透は吹き出した。
「それ、広報委員として最悪」
「でも、忘れないでしょ」
「…確かに」その翌日、ランチの時間にいつも通りの音楽が流れた。
けれど私は、その奥に別の“曲”も聞こえた気がした。笑い声。机のリズム。牛乳パック。誰かのいただきます。
それら全部が、私たちの学校の、いちばんいい音楽だった。