推しの妻になりました〜アイドルと契約結婚〜



「今日はこれにサインしてくれ」
「これ?」

 TOMAが苺依に渡したのは『契約結婚に関する契約書』だった。

「契約書…? ……え、これ。本気ですか?」
「俺が嘘ついてるように見えるか?」

 TOMAは、ソファに深く腰掛け長い足を組んだ。

「条件はこうだ。一、世間に対して俺の『婚約者』を演じること。二、俺のマンションで同居し、身の回りの世話をすること。三、この契約のことは墓場まで持っていくこと」
「……身の回りの世話って、まさか……」
「変な期待すんな。食事と掃除、あとあの『面倒事』が来た時の盾になれってことだ」
「面倒事?」
 
 彼はあからさまに嫌悪感を出し、コーヒーを一気に飲み干した。

「で、報酬は毎月100万円の給与と成功報酬として5千万だ」
「5千万!?」

 あまりの金額に目眩がした。
 苺依が一生、コンシェルジュとして働いても返せるか分からない額。
 それを、TOMAは「コーヒー代」でも払うかのような顔で言っている。

「……期限は?」
「一年。……一年経ったら、性格の不一致で婚約解消してやる。その後の人生は好きにしろ」

 悪魔の誘惑。
 でも、これに乗れば家の借金だって返済できる。
 それに……。

 やっぱりあの時の母親の言葉が気になってしまう。
 どうやったら、そんな関係になるのか苺依は不思議で仕方がなかった。
 それと同時に、あの時の彼の悲しい姿が忘れられない。

 苺依は震える手でボールペンを握った。

「……サインしました」
「物分かりがよくて助かる。……じゃあ、今日からあんたは俺の『婚約者』だ。よろしくな、いちご」
「あの! 私の名前はめい! いちごじゃありません!」
「めい? いちごの方が可愛いだろ」
「っ……!」

 さすがアイドル。
 可愛いとか言われて不覚にもときめいてしまった。

「じゃ、今月中にはマンション用意するから、荷物まとめておけよ」
「え、もう!?」
「当たり前だろ。親父にはもう言っちまってるしな。調べられたら面倒だ」

 親父とは昨日の電話の人、か。
 仲悪いのかな。

「……聞いてんのか、いちご」
「はっ、はい!」
「なら、来週月曜日に引っ越しな。マンションはこのホテルに通いやすい場所にするから問題ないだろ」
「あ……はい、ありがとう、ございます」

 
 こうして偽装の婚約者としての同居生活が幕を開けることになった。

――To be continued