
ようやく帰宅して時刻は23時。
『XENO』の配信の時間だ。
「あ、始まった」
なんとか間に合った。
いつも通りのオープニング。
画面に映るTOMAをじっと見つめる。
本当に今日あったのがこの人?
あまりの別人っぷりに、数時間前のやりとりが嘘だったのかと思うほど。
やっぱり違う人……だったのかな。
こんな人が私に偽装結婚なんてありえないよね。
推しに会えただけでも夢のようなのに、推しがあんなこと言うわけないよね。
うんうん。
やっぱりあれは夢か別人か……きっとそう。
苺依はそう自分に言い聞かせた。
◆
翌朝。
目が覚めると案外、頭の中はすっきりしていた。
「さっ、今日も頑張ろうっと!」
新しい朝の心地良い陽を浴びて、ホテルへと向かった。
「おはようございます!」
いつもと変わらない挨拶をかわし、制服に着替える。
この制服は苺依が憧れ続けた服。
袖を通すたびに身が引き締まる。
朝の日課を終わらせて業務に就こうかというときに、名指しで電話が入る。
「高階さん、お客様から」
「はい! もしもしお電話変わりました、高階で…………」
「あんた、昨日の約束……忘れてねぇだろうな?」
「あ……」
夢じゃなかったんだ。
今の今まで、絶対夢だと思ったのに。
「……いえ、忘れてなど……」
「嘘つけ。間があったじゃねぇか。ま、いいから早く来い」
――――――ガチャン
返事も聞かずに切られてしまった。
あいつっ…………やっぱり優しくないっ!
とても不本意ながらもTOMAの部屋の呼び鈴を鳴らした。
扉が開くとすぐにTOMAから鋭い視線で睨まれる。
「お……遅くなり……」
「入れ」
間髪入れずに手首を掴まれ部屋に引っ張られる。
「わぁっ……! ちょっと、引っ張らないでください」
「あんたがさっさと入らないからだろ。面倒なことはごめんだ」
自分から面倒事に巻き込んだくせに!
「今日はこれにサインしてくれ」
「これ?」
TOMAが苺依に渡したのは『契約結婚に関する契約書』だった。
――To be continued

