
悪魔のような笑みを浮かべたTOMAは苺依にさっきの婚約者の振りをしろと言ってきた。
「いやいやいや! 何言ってるんですか。っていうか嘘だったんですね」
「当たり前だろ。縁談なんてクソだりぃ」
「………」
テレビとの温度差に、今目の前にいるのが本物のTOMAか疑いたくなる。
「なら他の人とかに頼んでください。私はここのコンシェルジュ見習いですよ?」
「だからいいんだよ。芸能界の女も面倒くさいのが多いし。あんたみたいな一般人の方が好都合」
「好都合……」
言葉のチョイスにちょこちょこ腹が立つ苺依。
「もちろん、タダとは言わねぇ」
「え……」
「毎月100万」
「え!?」
「今の給料にプラス100万だ。なら文句ないだろ」
「100……」
言葉に詰まる。
100万円の魅力に負けて「やります」って言ってしまいそうだった。
「いや、いやいやいや! 無理です。絶対無理です!」
「は? 無理? この俺が言ってんのに?」
「無理です! 私の推しがこんな悪魔だったなんて……」
「そりゃあ悪かったな」
「思ってないでしょ」
「まーな」
この、野郎……!
悪魔か!
って心の中で罵倒したのに。
「悪魔じゃねぇ」
「なんでっ……はぁ…」
何を言っても無駄な気がして返す気力を失った。
「で、やるだろ?」
「やりませんよ」
「なにが気に入らないんだ?」
「それは……」
はっきりとは言えない。
推しと一緒にいれることは単純に嬉しいはずなのに。
本当の顔を知ってしまった今は、ただの性格の悪い男だ。
そんな人の婚約者なんて、できっこない。
「安心しろ。あんたには手出さないし、その生活のままでいい」
「ほんとに?」
「ああ。あくまでも契約上の婚約者だ。それとも手出してほしいか?」
「なっ! んなわけないでしょ!」
「冗談だって。俺だって誰でもいいわけじゃねぇんだ」
急に声のトーンを落としたTOMAの続きの言葉が気になってしまう。
「同業だとどうしてもスキャンダルになっちまうからな」
「それは…そうでしょうね」
TOMAの熱愛なんて発覚したら大ニュースだ。
「だから、な? ずっとじゃない。親父が諦めるまででいい」
「………」
ぎゅっと手を握られ、眩いほどの顔でみつめられてノーと言える女はいるんだろうか。
………否!!
「頼む……いいだろ?」
上目遣い―!!!
断れないーー!!!
「わ…………私でよければ」
「まじ? サンキュ。明日、もっかい部屋にこい。契約書にサインしろ」
「契約書!?」
あぁ、やっぱり早まったかもしれない。
高階苺依、23歳。
人生最大の、そして最悪の「推し活」が始まろうとしていた。
――To be continued

