悪辣魔王の腕のなか

「あら。もしかして、まだ知らなかった? あのふたり、柚木院長の息子で双子の兄弟なの」

 衣都はコクコクとうなずく。兄弟、それも双子とは初耳だ。
 同病院の救命救急科に在籍する医師、柚木奏真の柔和な笑顔を思い出すと、脳内がますます混乱をきたした。

「同じ苗字だから親戚かなって予想はしてたんですけど」

 民間の病院は一族経営のところも多く、先生同士が血縁関係にあるケースは珍しくない。
 彼らもそのパターンで、遠い親戚かなにかだろうと勝手に決めつけていた。
 まだ目を白黒させている衣都を見て、操はケラケラと笑う。

「奏真先生が兄で、響司先生が弟。二卵性だから、あんまり似てないけどね」
「あんまり、の範疇じゃないような……」

 心の声がつい、ボソッと漏れてしまった。

(あの優しそうな奏真先生の弟? にわかには信じられない)

 操が自分に嘘をつく理由などないと頭ではわかっていても、疑ってしまう。しかし、どうやら真実のようだ。

「ちょっと系統の違う顔立ちだけど、めったにお目にかかれない美形って点は共通してる。小顔で手足の長いスタイル抜群なとこも。最大の疑問は性格よね!」
「はい、たしかに」

 衣都は救命救急科にも出入りさせてもらっているので奏真とも面識がある。
 ほほえみの貴公子、そのあだ名にふさわしい紳士だ。患者だけでなく、自分たちのような立場の者にも気遣いと思いやりを欠かさない人。