悪辣魔王の腕のなか

 彼女の悲痛な叫び声がまだ耳に残っている。きっと夫を深く愛していたのだろう。

「詳しい事情は知りませんが、もう少しだけ彼女の気持ちに寄り添ってあげても――」

 衣都の言葉はそこで止まる。響司の大きな手に口を塞がれたからだ。まるで心臓を握られているかのような錯覚におちいって、背筋がひやりとする。

「俺にひとめ惚れしたという君のくだらない嘘には付き合ってやる。代わりに、この結婚にもうひとつ条件をつけさせてくれ」

 こちらの意思を抑えつける、威圧的な声。
 ノワールの瞳の暗さとあくどさが、より一層濃くなった。

「俺の仕事に口出しするな。でないと〝大切〟にしてやれなくなる」

 こんな目をして、妻を脅かす男が自分の夫になる。
 その未来に衣都は目まいを覚えた。

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