悪辣魔王の腕のなか

「うん。救急科より法医学センターのほうがたくさんうちの製品を導入してくれているでしょ。だから、奏真先生より彼と顔を合わせる機会のほうが多いし」

 それ自体は嘘じゃない。ツバキの扱うニッチな機器は法医学センターの需要とマッチしていた。

「怖そうだけど、仕事熱心で素敵な人だなと前から思っていたの」

 こっちは嘘なので、ちょっとだけ声が上擦る。でも幸い、両親は騙されてくれたようだ。

「そ、そうなの? あなた、衣都が望むなら柚木院長にお願いしてみたら?」
「あぁ、そうだな。院長はかなり前向きだったから、いい方向に進むかもしれないぞ」

 衣都はふたりに気づかれないよう、ホッと胸を撫でおろす。

(よかった、うまくいきそう)

 両親にも社員たちにも、会社のためじゃなく衣都の意思だと思っていてほしい。
 愛なんか欠片もない、利害だけの結婚。それは彼と自分だけの秘密でいい。