悪辣魔王の腕のなか

「理事たちの目がある。姻戚関係になった場合と比較すると、支援のハードルは高くなるな」

 身内の会社への援助と赤の他人への援助。前者のほうが理解を得やすくなるのは、まぁ当たり前といえば当たり前だ。

「柚木先生はどうお考えなんですか? 急にこんな縁談が降りかかってきて、お困りですよね」

 自分がどうしたいかよりも、そちらが気にかかった。

(性格は賛否両論だけど、間違いなくモテる人だもの。恋人がいるんじゃないのかな)

 つい先日も、病院内で看護師が『響司先生派』と熱く語っていたのを思い出す。
 たとえツバキのためでも、自分の行動が誰かの幸せを壊すのはできれば避けたい。

「俺は」

 彼はじっと衣都を見つめ、ハッとするほど美しい笑みを浮かべた。
 目も心も奪われる、魔性の笑みだ。

「この話を歓迎してるよ。君が妻になってくれるのなら……生涯をかけて大切にする」

 ドクンと勝手に心臓が高鳴る。
『大切にする』
 男の人からのそんな台詞、初めてだったから。自分でもチョロすぎると思うけれど、胸のドキドキが止まらない。彼の顔が直視できず、衣都はうつむく。
 その視界に、よく磨かれた黒い革靴のつま先が入り込む。響司が音もなく距離を詰めてきたのがわかった。

「あ、あの」

 ビクッと弾かれたように顔をあげると、想像以上に近いところで彼と視線がぶつかった。