悪辣魔王の腕のなか

 今は自分たちの縁談の話をしていたのではなかったか。困惑する衣都を置いてきぼりにして、彼は続ける。

「そうだ。君の実家の会社は、このままじゃじきに倒産する」
「――は?」

 遠慮も気遣いもいっさいない物言いに、衣都は眉をひそめた。
 経営が厳しいのは事実だけれど、従業員みんなで力を合わせてがんばっている。部外者の彼に断言されるのは、いい気分ではない。

「そ、そうならないよう、なんとか必死に……」
「無理だ」

 反論の言葉をすっぱりと遮られて、衣都の不快指数はますます高まった。

(なんなのよ、この人)

「あの程度の資本力で可能な施策など、数年の延命はできても抜本的な問題解決にはならない。倒産という結果は同じだ」

 あの程度の資本力……事実ではある。あるけれども、ツバキを見くだしたような彼の物言いに衣都はカッとなる。気がついたら、言い返していた。

「柚木先生はなにをおっしゃりたいんですか? つぶれそうな中小企業を見くだしたいだけなら、私はこれで失礼させていただきますけど」

 自分ははわりと穏やかな人間だと認識していた。誰かとこんなふうに喧嘩腰で話をするなど、記憶にあるかぎり初めてだ。