悪辣魔王の腕のなか

「ん」

 店員から受け取った抹茶ラテを、彼は衣都に手渡す。

「ありがとうございます」

 衣都は受け取り、ひと口飲んだ。苦みのなかにふんわりとした優しい甘さが広がる。
 とても好みの味で、おいしかった。
 どちらが提案したというわけでもないけれど、ベンチに並んで腰かける。

「あの、柚木先生」
「なんだ?」
「今日は申し訳ありませんでした。きっと、うちの父が勝手に盛りあがって柚木先生まで付き合わせてしまったんですよね」

 両親はわりと古風な価値観の持ち主で、アラサーになっても浮いた話がひとつもない衣都を心配していた。だから、今回の話に飛びついたのだろう。

(にしても、柚木先生となんて……高望みしすぎよ)

 都内屈指の大病院の御曹司と、懐事情の苦しい中小医療機器メーカーの娘。まったく釣り合いが取れていない。響司側にメリットがなさすぎる。
 コーヒーカップから口を離した響司が、クッと苦い笑みを浮かべた。

「あぁ。父親たちは自然な流れで親しくなれたら、などと能天気に考えているようだが」

 そこでふと言葉を切り、彼は衣都に顔を向けた。

「そんなものは時間の無駄でしかないな。単刀直入に説明しよう」
「説明?」
「あぁ、君はなにも知らずにここに来たみたいだから」

 では、彼は〝なに〟を知っているのだろう?

「君の勤め先であるツバキ医療機器」
「え、会社の話ですか?」