悪辣魔王の腕のなか

 白状すれば、衣都はあまり気乗りしなかった。響司との散歩が嫌なのではなく、父への不満がいまだくすぶっているからだ。

(いくらなんでも説明不足すぎるわよ)

 ここまであれこれとお喋りしたくせに、この見合いがどういう思惑でセッティングされたものなのかは院長も衣都の父も口にしていない。ふたりとも意識してその話題を避けているような不自然さがあった。
 なぜ、なんのために、自分と彼が見合いするはめになったのか。
 そこがわからない状態で、ふたりきりにさせられても困る。それが本音だった。
 おそらく響司だって同じ心境じゃないだろうか。きっと彼なら、父ふたりにズバッと言ってくれるはず……と他力本願な期待をかけていたが、それは見事に裏切られた。

「なら、近くの公園にでも」

 響司は立ちあがると、衣都に手を差し伸べたのだった。

 結局これも断りきれず、衣都は響司とともにホテル近くの大きな公園を訪れていた。
 なんのイベントなのか、円形の噴水の周りにちょっとした店やキッチンカーが出ている。
 今日は比較的暖かいので、カップルや家族連れでなかなか盛況だ。

「無意味に表情筋を使うと疲れるな」

 大きなため息とともに、彼はひとりごちる。

(あぁ、やっぱり……)