悪辣魔王の腕のなか

 衣都は目を輝かせて同意を示す。が、院長はがっくりと肩を落とした。

「嗜好が合うのはいいけど、それだとふたりは映画デートに行けなくないか?」

 この見合いをよい方向にまとめようとしてくれた彼の努力を、どうやら自分たちは台無しにしてしまったようだ。
 落ち込む自身の父を完全無視して、響司は衣都に聞く。

「好きな映画は?」
「オールジャンルなんでも観ますけど、一番をあげるならやっぱり『黒の王女と魔法の杖』シリーズです」

 剣と魔法の王道ファンタジーで、子どもも大人も楽しめる世界的大ヒットシリーズだ。

「メジャー作品すぎて、お恥ずかしいですが」

 映画ファンを名乗るする以上、隠れた名作を知っていなければいけない。映画ファンの間にはそんな不文律がある気がする。

「恥ずかしくはないだろう。わざわざマイナー作を探してきて玄人ぶるほうがおかしい」
「たしかに。それはそうですね」

 料理はどれも素晴らしかったし、食事会は想像よりはるかに和やかに進んでいった。
 締めの甘味、抹茶のテリーヌを食べ終えたタイミングで、院長が切り出す。

「天気もいいし、せっかくだからふたりで散歩でもしてきたらどうだい? このあとは別行動で構わないから」

 見合いの定番文句〝あとは若いふたりで〟というやつだろう。父も「名案ですね」などと軽い調子で同意する。