騙し討ちの見合いってだけでありえないのに、相手があの響司だとは――。
彼も衣都と同じく、騙されてここに来たのだろうか。それとも承知のうえで?
どちらにしても、彼がこの状況を歓迎しているとは思えなかった。
(あぁ、早く終わって)
衣都が天を仰いで嘆いた次の瞬間、響司がふいに口を開く。
「この先付け、うまいですよ。食べないんですか?」
「へ?」
彼らしからぬ丁寧な口調に驚いて、妙な声が出てしまった。
「蟹は苦手でしたか」
彼がおいしいとすすめてくれたのは、先付けとして提供された蟹とイクラの和えものだ。
「い、いえ。好きですけど」
むしろ蟹は大好物だ。ただ今は、おいしく食べられるテンションじゃないってだけで……。とはいえ、食べものに罪はないし、手をつけないのは調理してくれた方にも失礼だろう。そう考え直して、衣都は箸を取る。
「あ、おいしい」
蟹のうまみとイクラのプチッとした食感、三つ葉の香りもいい塩梅。さすがは老舗ホテル、先付けから期待以上の味だった。
「それはよかった」
響司がかすかに目尻をさげる。今日の彼は白衣ではなく、ノーネクタイのブルーシャツに紺のジャケット。髪型もいつもよりラフな雰囲気だ。
そのせいだろうか。衣都の知る彼よりもずっと、まとう空気が穏やかだった。
(……別人みたい。魔王なのは仕事中だけで、プライベートは別なのかな?)
彼も衣都と同じく、騙されてここに来たのだろうか。それとも承知のうえで?
どちらにしても、彼がこの状況を歓迎しているとは思えなかった。
(あぁ、早く終わって)
衣都が天を仰いで嘆いた次の瞬間、響司がふいに口を開く。
「この先付け、うまいですよ。食べないんですか?」
「へ?」
彼らしからぬ丁寧な口調に驚いて、妙な声が出てしまった。
「蟹は苦手でしたか」
彼がおいしいとすすめてくれたのは、先付けとして提供された蟹とイクラの和えものだ。
「い、いえ。好きですけど」
むしろ蟹は大好物だ。ただ今は、おいしく食べられるテンションじゃないってだけで……。とはいえ、食べものに罪はないし、手をつけないのは調理してくれた方にも失礼だろう。そう考え直して、衣都は箸を取る。
「あ、おいしい」
蟹のうまみとイクラのプチッとした食感、三つ葉の香りもいい塩梅。さすがは老舗ホテル、先付けから期待以上の味だった。
「それはよかった」
響司がかすかに目尻をさげる。今日の彼は白衣ではなく、ノーネクタイのブルーシャツに紺のジャケット。髪型もいつもよりラフな雰囲気だ。
そのせいだろうか。衣都の知る彼よりもずっと、まとう空気が穏やかだった。
(……別人みたい。魔王なのは仕事中だけで、プライベートは別なのかな?)



