悪辣魔王の腕のなか

 その打ち明け話に衣都はひどく憤慨した。今日の食事、ふたりきりではなく同席者がいるそうなのだ。父の知人とその息子。

「それって……お見合いとかそういう類の?」
「いや、そんなに堅苦しいものじゃないから。お互いの息子と娘がちょうど釣り合う年頃だな~と盛りあがっただけで」
「つまり、お見合いじゃない!」

 衣都はげんなりと頭を抱える。
 会社が危ないって相談よりはマシだろうか。いや、どっちも同じくらい嫌だ。お見合いそのものがどうこうではなく、騙し討ちのような父のやり口が納得できなかった。

「私は帰らせてもらうからね」

 先方に対して失礼になるのは重々承知しているけれど、ここで自分が折れてあげる道理もない。ササッと踵を返した衣都の腕に、父がすがりついてくる。

「待って、待って。楽しく食事するだけでいいんだ」
「こんな気分で楽しく食事ができるわけないでしょ」

 コソコソと小声で喧嘩するふたりのもとに、落ち着きのある渋い声が割って入った。

「椿屋さん」

 フルオーダーメイドに違いない上等なスーツに身を包んだ紳士が、にこやかな笑みを浮かべてそこにいた。

「今日はありがとうございます。私も息子も、とても楽しみにしていたんですよ」

 衣都は驚きに目を白黒させる。素敵な紳士も、その後ろに立つ息子のほうも……よく知っている人物だったからだ。