真夜中、激しいノックの音で目が覚める。
これはいつもの侍女のノックではない。
ドアを叩く主は私の返事を聞くことなくドアを開ける。
「シエル様、緊急要請です。西の森付近に魔物が出現しました同行お願いします」
「わかりました」
時々、こういった出動もある。
魔物討伐に時間帯は関係ない。
夜中だからといって放っておけば近隣の街に大きな被害が生じる。
レオルド王子や騎士たちはもう西の森に向けて出発しているだろう。
私も怪我人が出ないうちに向かわなければ。
ベッドから出て着の身着のまま部屋をでてヴァイザー様についていく。
「これをどうぞ」
「ありがとうございます……」
ヴァイザー様が肩に騎士団のローブを掛けてくれた。
ありがたく貸していただこう。
今回は馬車ではなく、馬に跨った。
何度か乗ったことはあるけれど、いまだに慣れない。
私は後ろから手綱を握るヴァイザー様に体を預ける。
馬を飛ばし、西の森に着いた時には怪我をした数人の騎士たちが避難していた。
奥からは魔物の咆哮が聞こえている。
まだ怪我人は増えるかもしれない。
急いで怪我をした人たちのところへ駆け寄る。
怪我をしている騎士たちはほとんど血は流れていなかった。
私は一番ぐったりしている人に声をかける。
「患部を見せてもらえますか?」
息の浅い騎士は胸元をギュッと掴んだ。
服を脱がせると、胸部を入念に診る。
肺や肋骨が損傷しているのかも。
「ヴァイザー様、他の方も患部を確認しておいていただけますか」
「わかりました」
患部がはっきりしない治療はお互いに負担がかかる。
目に見えない損傷を治すのは時間もかかるし、魔力の消費も予想がつかない。
それでも、有無を言わさず治していくしかない。
胸部に手を当て、身体の奥深くに魔力を流し込んでいく。
次第に呼吸が戻ってきて、顔色も良くなった。
私は大丈夫なことを確認して、次の負傷者の治療を始める。
打撲のような怪我が多く、体の中の損傷がわかりにくいため魔力も余分に使ってしまっている。
それでも加減して命を危険にさらすわけにはいかないので、惜しみなく治療を施していく。
「シエル様、すみません。私もここを少し離れます」
「わかりました。お気をつけて」
ヴァイザー様は私に声をかけ、森の奥へと駆けて行く。
私がいるときは付いてくれている彼が行かなければいけない。
それほど大変な現場だということ。
急に不安がこみ上げてくるけれど、私は私のやるべきことに集中しなければ。
けれど、次々に運ばれてくる負傷者に魔力の限界を感じていた。
しばらくすると、ヴァイザー様が戻ってきた。
討伐が落ち着いたのかと思ったけれど、ひどく険しい顔をしている。
「シエル様、ここを離れましょう」
「え……」
それは、魔物がここまで迫ってきているということ。
「他の部隊と治癒師にも応援要請を出しました。それまで耐えられますか」
「はい、大丈夫です」
今まで現場に他の治癒師を呼んだことはなかった。
軽い怪我程度なら治癒魔法は使わないので、人手が足りないということはなかったのに。
私自身、身体がふらつく。
でもまだ負傷者は増えるはず。
なんとか耐えなければ。
緊迫する中、怪我をした騎士たちと森から離れていく。
けれどその時、大きな咆哮が聞こえた。
振り返ると、見たこともない巨大な魔物がこちらに向かっていていた。
騎士団の攻撃をかなり受けているようだけれど、それでも我を失ったかのように暴れている。
レオルド王子と騎士たちは魔物と対峙しさらに攻撃をしかけているけれど、どんどん押されている。
大丈夫だろうか。
血がダラダラと流れているわけではないのでわかりにくいけれど、王子は足を庇うように剣を振るっている。
あれは絶対に怪我をしている。
その時、レオルド王子の後方から、一体の魔物が現れた。
それほど大きくはないけれど、鋭い牙と爪で迫ってくる。
みんな対峙している大きな魔物に気を取られ、現れた魔物に気付いていない。
そして、魔物は王子に向かって飛び掛かった。
「危ない!」
私は咄嗟に駆け出していた。
レオルド王子の前に立ち、魔物と向かい合う。
――あれ私、なにやってんだ。
戦ったことなんてないのに。
それでも、怪我をした彼の無防備な背に、飛び出さずにはいられなかった。
鋭い爪を携えた太い腕が、私を薙ぎ払うように大きく動く。
「シエル!」
王子の叫びが聞こえたけれど、体に強い衝撃を受けたあと、痛みを感じる間もなく私の意識は遠のいた。
◇ ◇ ◇
――身体が重い。
特別痛いところはないけど、ただただダルい。
でも、身体は心地よいふかふかな何かに包まれている。
てかこのふかふか、最近知った感覚だ――
「シエル?」
「レオルド王子……」
名前を呼ばれ目を開けると、王子の顔がすぐ横にあった。
そしてここはもう何度も来た彼の部屋だ。
いつもと違うのは、私がベッドで寝ていて、王子がベッドわきの椅子に座って私を見ているということ。
「なんですか、その泣きそうな顔は。らしくないですね」
「シエル……きみって人は……」
ホッとしているのか呆れているのか、レオルド王子は眉を下げたまま横になったままの私をぎゅっと抱きしめた。
これはいつもの侍女のノックではない。
ドアを叩く主は私の返事を聞くことなくドアを開ける。
「シエル様、緊急要請です。西の森付近に魔物が出現しました同行お願いします」
「わかりました」
時々、こういった出動もある。
魔物討伐に時間帯は関係ない。
夜中だからといって放っておけば近隣の街に大きな被害が生じる。
レオルド王子や騎士たちはもう西の森に向けて出発しているだろう。
私も怪我人が出ないうちに向かわなければ。
ベッドから出て着の身着のまま部屋をでてヴァイザー様についていく。
「これをどうぞ」
「ありがとうございます……」
ヴァイザー様が肩に騎士団のローブを掛けてくれた。
ありがたく貸していただこう。
今回は馬車ではなく、馬に跨った。
何度か乗ったことはあるけれど、いまだに慣れない。
私は後ろから手綱を握るヴァイザー様に体を預ける。
馬を飛ばし、西の森に着いた時には怪我をした数人の騎士たちが避難していた。
奥からは魔物の咆哮が聞こえている。
まだ怪我人は増えるかもしれない。
急いで怪我をした人たちのところへ駆け寄る。
怪我をしている騎士たちはほとんど血は流れていなかった。
私は一番ぐったりしている人に声をかける。
「患部を見せてもらえますか?」
息の浅い騎士は胸元をギュッと掴んだ。
服を脱がせると、胸部を入念に診る。
肺や肋骨が損傷しているのかも。
「ヴァイザー様、他の方も患部を確認しておいていただけますか」
「わかりました」
患部がはっきりしない治療はお互いに負担がかかる。
目に見えない損傷を治すのは時間もかかるし、魔力の消費も予想がつかない。
それでも、有無を言わさず治していくしかない。
胸部に手を当て、身体の奥深くに魔力を流し込んでいく。
次第に呼吸が戻ってきて、顔色も良くなった。
私は大丈夫なことを確認して、次の負傷者の治療を始める。
打撲のような怪我が多く、体の中の損傷がわかりにくいため魔力も余分に使ってしまっている。
それでも加減して命を危険にさらすわけにはいかないので、惜しみなく治療を施していく。
「シエル様、すみません。私もここを少し離れます」
「わかりました。お気をつけて」
ヴァイザー様は私に声をかけ、森の奥へと駆けて行く。
私がいるときは付いてくれている彼が行かなければいけない。
それほど大変な現場だということ。
急に不安がこみ上げてくるけれど、私は私のやるべきことに集中しなければ。
けれど、次々に運ばれてくる負傷者に魔力の限界を感じていた。
しばらくすると、ヴァイザー様が戻ってきた。
討伐が落ち着いたのかと思ったけれど、ひどく険しい顔をしている。
「シエル様、ここを離れましょう」
「え……」
それは、魔物がここまで迫ってきているということ。
「他の部隊と治癒師にも応援要請を出しました。それまで耐えられますか」
「はい、大丈夫です」
今まで現場に他の治癒師を呼んだことはなかった。
軽い怪我程度なら治癒魔法は使わないので、人手が足りないということはなかったのに。
私自身、身体がふらつく。
でもまだ負傷者は増えるはず。
なんとか耐えなければ。
緊迫する中、怪我をした騎士たちと森から離れていく。
けれどその時、大きな咆哮が聞こえた。
振り返ると、見たこともない巨大な魔物がこちらに向かっていていた。
騎士団の攻撃をかなり受けているようだけれど、それでも我を失ったかのように暴れている。
レオルド王子と騎士たちは魔物と対峙しさらに攻撃をしかけているけれど、どんどん押されている。
大丈夫だろうか。
血がダラダラと流れているわけではないのでわかりにくいけれど、王子は足を庇うように剣を振るっている。
あれは絶対に怪我をしている。
その時、レオルド王子の後方から、一体の魔物が現れた。
それほど大きくはないけれど、鋭い牙と爪で迫ってくる。
みんな対峙している大きな魔物に気を取られ、現れた魔物に気付いていない。
そして、魔物は王子に向かって飛び掛かった。
「危ない!」
私は咄嗟に駆け出していた。
レオルド王子の前に立ち、魔物と向かい合う。
――あれ私、なにやってんだ。
戦ったことなんてないのに。
それでも、怪我をした彼の無防備な背に、飛び出さずにはいられなかった。
鋭い爪を携えた太い腕が、私を薙ぎ払うように大きく動く。
「シエル!」
王子の叫びが聞こえたけれど、体に強い衝撃を受けたあと、痛みを感じる間もなく私の意識は遠のいた。
◇ ◇ ◇
――身体が重い。
特別痛いところはないけど、ただただダルい。
でも、身体は心地よいふかふかな何かに包まれている。
てかこのふかふか、最近知った感覚だ――
「シエル?」
「レオルド王子……」
名前を呼ばれ目を開けると、王子の顔がすぐ横にあった。
そしてここはもう何度も来た彼の部屋だ。
いつもと違うのは、私がベッドで寝ていて、王子がベッドわきの椅子に座って私を見ているということ。
「なんですか、その泣きそうな顔は。らしくないですね」
「シエル……きみって人は……」
ホッとしているのか呆れているのか、レオルド王子は眉を下げたまま横になったままの私をぎゅっと抱きしめた。



