カーテンコールはまだ鳴らない。


* * *

駅の改札前に着くと、人の流れが少し途切れた。

響華はふと立ち止まり、鞄の肩ひもを整える。

侑玖も同じく足を止め、前方の改札機を見つめたまま、少し間を置く。

「じゃ、ここで。」

響華が軽く微笑む。

その声に、侑玖は小さく頷いた。

「昨日の今日で呼び出しちゃってゴメンな。

気をつけて帰れよ。」

言葉はそれだけだったが、胸の奥に残る重さはお互いにわかるような気がした。

響華は少し身をひねり、改札機へ向かって歩き出す。

後ろから、侑玖の視線が静かに彼女を追う。

その目には、まだ少しだけ今日の余韻が残っている。

「……また、仕事終わりにでも。」

響華は改札を通りながら、軽く手を振る。

侑玖はそれに応えるように、手を小さく挙げてから、

自分も改札を抜けた。

人混みに紛れて、二人は自然にそれぞれの道を進む。

言葉は少ないけれど、互いに安心と温かさを確かめ合った後の別れ。

改札を出た瞬間、夜の空気が少しだけ冷たく感じられたが、

心の奥には、どこか柔らかな余韻が残っていた。