万華鏡は月を巻き戻す


海から上がり、砂浜に戻る。

「お腹すいたなー。なんか食べよう!」

「うん!」

朔の提案に頷く。

「ここ座ってて。何がいい?」

パラソルの下の休憩スペースに座る。

「うーん、焼きそば?」

「了解。良い子に待ってて。」

そう言って、朔は当たり前みたいに私のの頭をぽん、と撫でた。

そのまま屋台の方へ歩いていく朔を、羽瑠はぼんやり眺める。
太陽の下で茶色の髪が揺れて、背中がやけに頼もしく見えた。

……と思ったら。

「あー、ナンパされてる。」

しかも、年上っぽい水着のお姉さん。
スタイル抜群。
笑顔キラキラ。

なーにが「良い子に待ってて」よ。

思わず目を細めて睨む。

そのとき――

「月宮さん?」

「え?」

顔を上げると、影がひとつ落ちていた。

「速川先輩?」

「まさか名前を覚えてくれてたなんて、嬉しいな。」

頬をかきながら笑うのは、速川 湊。
同じ高校の三年生。
(容疑者候補のひとりとして覚えていたけど……そんなこと言えるわけない。)

「遊びに来たんですか?
えっと……彼女さんとですか?」

「いや、彼女とは3日前に別れて。」

……早いな。
二ヶ月くらいじゃなかったっけ。

「へぇー。」

「少し息抜きに友達と来たんだ。
今年受験だから。」

そう言って笑う速川先輩は、どこか大人っぽくて、
海の光が似合っていた。

「そうなんですね。」

「月宮さん……俺、ほんとは――」

言いかけたその瞬間。

「羽瑠、お待たせ。」

朔が割り込むように戻ってきた。
手には焼きそば。
目は、完全に速川先輩をロックオン。

ジロリ。

速川先輩は苦笑しながら一歩下がる。

「あ、ごめん。彼氏と来てたんだね。
邪魔しちゃったね。」

「あ、いえ。」

速川先輩は軽く手を振って去っていった。