万華鏡は月を巻き戻す



それにしても——。

「朔…良い体してるね。」

思わず視線が腹筋に吸い寄せられる。
日差しを受けて、うっすらと影が浮かぶ。無駄な肉が一切ない、引き締まったライン。

「あ、気づいちゃった?」

「うん。」

「鍛えてるんだよ。」

「へぇー。」

「頼りになる男は筋肉必須だろ?」

朔がニヤリと笑う。
その笑顔の下で、肩から胸にかけての筋肉が自然に動く。
太陽に照らされたその姿は、いつもより少し大人びて見えた。


「腕の傷、少し跡残っちゃうかな。」

私を助けようとガラス片で切った腕の傷がみえ、朔の腕にスッと触れる。

「大丈夫だよ。」

「ほんと?」

「それより…くすぐったい。」

恥ずかしそうに顔を背ける。

「あ、ごめん。」

手を離そうとしたら、ふわりと握られる。

「でも、羽瑠に触れられるのは悪い気はしないけどね。」

ニヤリと笑う。

「もう。」

そう言うと、

「よし、海入ろ!
あ、まず準備運動ね!」

朔が太陽みたいに明るく笑う。

「うん!」

2人でで腕を回したり、軽く屈伸したり。
砂の上は少し熱くて、足の裏に夏の気配がじんわり伝わる。

準備運動を終えると、朔が海の方を指差した。

「はい、白い手に攫われないように俺の手を掴んでね。
あと、浮き輪も使いましょう!」

そう言って、朔は浮き輪を持ち上げると――

スポッ。

そのまま私の頭からかぶせた。

「ちょ、ちょっと!いきなり!」

「安全第一だから。」

朔は真面目な顔をしているのに、口元だけが笑っている。

海風がふたりの髪を揺らし、波の音が足元まで届く。
浮き輪が胸のあたりでふわっと揺れて、私は思わず笑った。