万華鏡は月を巻き戻す

デート当日。

髪をハーフアップにして、お気に入りのワンピースを着た。
鏡の前で何度も確認してしまう自分に、思わず苦笑する。

……なんだかんだ、楽しみにしてる。

「おはよう!羽瑠。ワンピースだ。可愛い!」

朔はいつものように、まっすぐ褒めてくる。

「ありがとう。」

シンプルなシャツにズボンの朔は、
春の光を受けて爽やかに笑っていた。

「よし、行こう。」

そう言って、自然に手を引かれる。
その温度に、胸が少しだけ跳ねた。

「うわ、見て!このクラゲ可愛い。」

「ほんとだ。」

青い光に照らされたクラゲが、
ふわふわと漂っている。
二人で並んで歩く水族館は、
どこか静かで、心地よかった。

深海魚コーナーに入ると、
照明が落ちて一気に暗くなる。
水槽の青い光だけが、朔の横顔を淡く照らした。

そのとき──

「ねぇ、羽瑠。」

朔の声が、いつもより少し低く聞こえた。

「羽瑠のまわりで、変わったことってない?」

「別にないけど……
あ、朔に追い回されてるくらい?」

「そうじゃなくて。」

暗がりで表情はよく見えない。
でも、声の色がいつもと違う気がした。

「何かあったら言ってね。」

「何かって……。」

「なんでも。」

その言い方が妙に引っかかる。
胸の奥がざわっとした。

「変なの。」

言いかけたところで、
朔がいつもの明るい声で、

「イルカショー始まるんじゃない?いこう!」

まるで、さっきの空気を
なかったことにするみたいに。