万華鏡は月を巻き戻す


「あと、残る容疑者は……黒木雅信。」

朔が低い声で言う。

「うん。さっきね、その黒木院長に会ったの。」

「え? 大丈夫だった?」

「うん。
私、亡くなった娘さんに似てるって言ってた。
しかも夏祭りの日に亡くなってるって。」

朔の表情が一瞬だけ固まる。

「やっぱり……。名前は黒木沙羅。当時17歳。
15年前、夏祭りの帰りに居眠り運転のトラックが赤信号のまま突っ込んできて、亡くなった。」

「そんなに……似てるの?」

「見る?」

「うん。」

朔はスマホを取り出し、写真を見せてくれた。
新聞の切り抜きのような古い記事。

「確かに……似てるかも。」

「うん。今の羽瑠とよく似てる。
まあ、羽瑠のほうが可愛いけどね!」

「そんなこと今はいいから。」

軽口を遮ると、朔は肩をすくめた。

「それよりも、当時はアリバイがあったって…。」

朔の調べた模造紙に書いてあった。

「うん。病院にいた記録が残ってたらしい。
でも……黒木病院は大きいし、警察との繋がりもあったはず。
正直、どうにでもできたかもしれない。」

「そう……。」

黒木病院は先進医療に強く、海外での実績がある医師も多い。
黒木院長自身も、海外で移植手術を成功させてきた名医だ。

そんな人が――
もし、娘を失った悲しみで何かを歪めてしまったのだとしたら。

「だから、この件は……俺に任せてほしい。」

「え?」

朔の声は静かだった。
けれど、その奥に強い決意があった。

「俺が話してくる。」

「いや、でも……私のことだし。」

「うん。だからこそだよ。」

朔はまっすぐ私を見る。

「黒木とは、俺が決着をつける。」

その言葉は、拒む隙を与えないほど強かった。

「わ、わかった。」

そう返すしかなかった。

でも――
胸の奥がざわつく。

朔の決意の裏に、
“何かを覚悟している気配”が、確かにあったから。