万華鏡は月を巻き戻す

病院の外に出ると、むわっとした夏の空気が肌にまとわりついた。

「羽瑠!」

振り返ると、朔が駆け寄ってくる。

「朔……。」

「アイス食べいこう! 暑い。」

「うん。」

二人で近くの売店でアイスを買い、木陰のベンチに腰を下ろす。
蝉の声が遠くで響き、夏休みの始まりを告げているようだった。

しばらく黙ってアイスを舐めていたけれど、
胸の奥に引っかかっていた言葉がどうしてもこぼれた。

「ねぇ、朔。」

「なに?」

私は深呼吸して、勇気を振り絞る。

「さっくんだよね?」

その瞬間――
朔の表情がふっと揺れた。
泣きそうな顔。
驚きと、安堵と、少しの痛みが混ざったような。

「思い出したんだ。」

「うん。夢を見たの。」

さっくんと出会った日のこと。
万華鏡を渡した日のこと。

でも――
私は“その先”を知らない。

「そっかー。
そうだよ。俺がさっくん。
君が万華鏡をくれた。」

「お爺ちゃんのだけどね。」

そう言って笑うと、朔も少しだけ笑った。

「10年後の朔がここにいるってことは、夢が叶ったんだね。」

余命三年と言われていた少年が、
こうして私の隣でアイスを食べている。

きっと、移植がうまくいったんだ。

そう言うと、朔は笑った。

「うん、そうだね。」

その笑顔は、どこかぎこちなかった。
けれど――
私はその違和感を見逃してしまった。

あのとき、もっとちゃんと見ていればよかった。
朔の笑顔の奥に隠れていた“影”に、気づけたはずなのに。