万華鏡は月を巻き戻す


私は少年を病院まで送った。
外の空気は少し冷たい。

「じゃあね、少年。」

「名前あるから。
俺は――」

「じゃあ、さっくんだね!」

思わず笑って言うと、
彼は一瞬むっとした顔をしたあと、照れたように視線をそらした。

「うん。」

自動ドアの前で、彼はふいに振り返る。
胸に万華鏡を抱えたまま、少しだけ頬を赤くして。

「ねぇ、羽瑠!10年後。俺がかっこいい大人になったらさ、
羽瑠のこと口説きにいくね!」

「なんだそれ!
楽しみにしてる!」

私が笑って手を振ると、
彼も子どもみたいに全力で手を振り返した。
その姿が、胸の奥に焼きついた。

――ふっと、目を開ける。

朝。
カーテンの隙間から差し込む光が白くて、
夢の輪郭がまだ消えずに残っていた。

頬が濡れている。
涙。

「……さっくん。」
口にした瞬間、胸がきゅっと締めつけられた。



夢の中のさっくんと朔が重なる。

朔は―
何かを私に隠している気がする。

その“何か”だけが、まだ胸の奥に残っていた。