万華鏡は月を巻き戻す

「いいね。」

私は少年が指差した万華鏡をそっと手に取り、
その冷たいガラスの感触を確かめてから彼に渡した。

「のぞいてごらん。」

そう言って、彼の後ろに回り、
小さな手が落とさないように、そっと包むように支える。
万華鏡の先にある光を集めるように角度を調整すると、
部屋の中の色が一気に彼の視界へ流れ込んだ。

「うわあ。綺麗。
すごい。」

少年の声が震えていた。
驚きと、少しの喜びと、信じられないような気持ちが混ざった声。

「でしょ?」

私は彼の横顔を見つめる。
光の粒が頬に散って、まるで彼自身が万華鏡の一部になったみたいだった。

「それ、君にあげようか?」

「え?いいの?」

少年は目を大きく開く。
その瞳の奥に、さっきまでなかった明るさが灯っていた。

「うん。
あ、一応お爺ちゃんに確認取らないとだけど。」

私は部屋の外にいるお爺ちゃんに声をかける。

「お爺ちゃん、これあげてもいい?」

「お、お目が高いな。」
お爺ちゃんはゆっくり近づきながら、少年をじっと見つめる。
「その万華鏡が君を選んだんだな。」

「え?」

少年がぽかんと口を開ける。

「君が選んだんじゃなくて、
万華鏡が君を選んだんだよ。」

「お爺ちゃんまた難しいこと言ってる。」

私はため息をつくけれど、
お爺ちゃんの言葉の意味はなんとなく分かる気がした。

「その万華鏡は不思議な万華鏡なんだよ。」

お爺ちゃんは少年の手元を優しく見つめる。

「君が必要だと思った時に、きっと力になるはずだ。
そういうおまじないがかかってる。」

「そっか。」

少年は胸の前で万華鏡を抱きしめる。
まるで壊れやすい宝物を守るみたいに、
両腕でそっと包み込んだ。

その姿が、なんだかとても愛おしかった。