万華鏡は月を巻き戻す


夕方の公園。
オレンジ色の光が地面に長い影を落としていて、風が砂場の砂をさらさら運んでいく。

そこで、ひとりの男の子に出会った。

「何してるの?」

パジャマ姿のまま、彼はブランコを小さく揺らしていた。
足は地面についたまま、ただ前後に体を預けるだけ。
その姿が、どこか現実離れして見えた。

「病院から抜け出してきた。」

「へぇ。どこか悪いの?」

私は隣のブランコに腰掛ける。
鎖がきしむ音が、夕暮れの静けさに溶けていった。

「腎臓。移植しないと死ぬんだって。余命三年らしいよ。」

彼は淡々と言う。
まるで天気の話でもするみたいに。

「そうなんだ……。
私の腎臓、あげられたらいいのにね。」

口にしてから、自分でも驚くほど軽い言葉だったと気づく。

「ねぇ、なんで初対面でそんな軽く言えるの?」

彼は横目で私を見る。
その目は年齢よりずっと大人びていた。

「君、将来めちゃくちゃカッコよくなってそうだから。」

「なにそれ。」

「それに腎臓って二つあるでしょ。
一つくらいあげても大丈夫なんじゃないの?」

「そういう問題じゃなくてさ。
親とかは泣きながら言うよ。私のをあげられたらって。
でも合わないんだって。」

彼は足元の砂をつま先で蹴る。
その仕草が、言葉よりもずっと寂しそうだった。

「そっか。
じゃあ私のは合うかもしれないね。」

「適当な人。」

「失礼だな。」
そう言いながら、私は立ち上がる。
夕陽が沈みかけて、街灯がぽつぽつ灯り始めていた。

「まあ、腎臓はすぐにはあげられないけど……
良いものなら見せてあげられるよ。来る?」

「え?」

「すぐそこ。あのお店。」

私は、公園の向かいにある古い木造の店を指さした。
祖父が営む小さな店。
ガラス越しに、温かい光がゆらゆらと漏れていた。