万華鏡は月を巻き戻す


そして、私たちは先生に連れられて黒木病院へ向かった。

白い廊下を歩くと、消毒液の匂いが鼻をつく。
処置室に入ると、蓮水先生がすぐに朔の腕を見て眉をひそめた。

「これどうしたの?」

「天窓につっこみました。」

朔は悪びれもせずに言う。
蓮水先生は呆れたように息をつきながら、手際よくガラス片を取り除いていく。

「一歩間違えたら死んでるよ。今後は気をつけてね。」

「はーい。」

朔は緩く返事をする。
本当にわかってるのか、怪しい。

消毒のしみる匂いが漂う中、包帯が巻かれていく。
処置が終わり、私たちは病院を出た。

「二人とも蓮水先生と話をしてくるから少し待っててくれ。
帰りは車で送るから。」

そういわれ、朔と二人で椅子に座る。
朔の腕や頬に貼られたガーゼが目に入る。

「朔、大丈夫? 痛くない?」

「んー 平気。見た目ほど痛くないから。」

「ほんとに?」

「ほんと。」

へにゃりと笑うその顔は、いつもの朔だった。
でも、包帯の白さがやけに目立って、胸がきゅっとなる。

あんな無茶をしてまで来てくれた。
その事実が、じわじわと心に広がっていく。

朔の手が、そっと私の手を包み込んだ。

驚いて顔を向けると、朔は前を向いたまま、少しだけ指に力を込める。

「……怖かったでしょ。」

その声は、いつもの軽さとは違っていた。
低くて、優しくて、胸の奥に直接触れてくるような響き。

私は何も言えず、ただ握られた手を見つめる。

朔の手は温かかった。
包帯越しでも、その温度はしっかり伝わってくる。

「もう大丈夫。俺がいるから。」

その言葉に、喉の奥がきゅっと締まる。

涙が出そうになるのを必死でこらえながら、私は小さく頷いた。

握られた手は、離れなかった。