万華鏡は月を巻き戻す


とりあえず何度も扉を引っ張ったり押したり、肩で体当たりまでしてみたけれど、びくともしない。
金属の冷たい感触が腕に響くだけだった。

見上げると、上には天窓ガラスがあるだけ。
あれは…届くかどうか。

(そもそもなんで……)

胸の奥がざわつく。
私はその場にしゃがみ込んだ。
脇に置いたダンボールをみる。

(っというか、この中身なんだろう)

震える指でガムテープを剥がし、箱を開ける。

中には紙が一枚。
乱暴に書き殴られた文字が目に飛び込んできた。

『朔くんに近寄るな! メス豚が!! くたばれ』

息が止まった。

まさか……そっちか。

朔と一緒にいることで、違う危険フラグが立ってしまったらしい。
胸の奥が冷たくなる。

(スマホ……)

そうだ、終業式だったからカバンは教室のロッカーの中。
スマホもそのまま。

「あー……やっちゃった……」

額に手を当てる。
状況が悪すぎる。

それにしても、倉庫の中は蒸し風呂みたいに暑い。
空気がこもっていて、息を吸うたびに喉が焼けるようだった。

(こんなところにいたら、熱中症になって死ぬじゃん……)

殺されるよりマシ?
そんなわけあるか。

(諦めない……!)

私は扉に向かって叫んだ。

「だれかー!!」

声が倉庫の中で反響するだけで、外には届いていないようだった。
返事はない。
足音もない。

静寂だけが、じわじわと不安を煽る。