万華鏡は月を巻き戻す

そして誕生日当日。

速川 湊は、私に告白することもなく、あっさりと他の子と付き合い始めた。
胸の奥にあった小さな棘が、音もなく抜け落ちていくような感覚だけが残った。

「速川先輩が他の子とうまくいったから、これで私とは関係なくなったよね。」

「そうだね。
見せつけた甲斐があった。貴方の入る隙はありませーんって!」

朔が得意げに笑う。
その笑顔があまりにも自然で、思わず肩の力が抜けた。

「ほんとにもう。」

気づけば、朔が私の手をそっと取っていた。
指先が触れた瞬間、少しだけ心臓が跳ねる。
でも、拒む理由なんてどこにもなかった。

並んで歩くと、アスファルトの照り返しがワンピースの裾を揺らした。

「それにしても、今日のワンピースもすごい可愛い!」

朔が目を細める。
私は水色の涼しげなワンピースにポニーテール。
鏡で見たときより、彼に言われると少しだけ特別に思えた。

「ありがとう。それより今日はどんな予定なの?
私、プレゼントも用意してないよ。」

朔は“プレゼントはいらない”と言っていた。
本当にそれでいいのかと少し不安だったけれど、
今の朔の顔を見ると、何か企んでいるのは明らかだった。

「いいの! いいの!
これから一緒につくるから。」

「つくる?」

「ほら、いこう!」

朔が手を引く。
その勢いに、誕生日の朝の空気が少しだけ甘く揺れた。