万華鏡は月を巻き戻す

それから俺は、調べ始めた。

祖父母の遺品の中にあった古い新聞。
町の図書館の縮刷版。
ネットの片隅に残っていた、誰も気に留めないような記事。

ひとつの“日付”が、何度も目に飛び込んできた。

8月13日。
羽瑠が亡くなったとされる日。

見つかったのはその一週間後。記事には、赤い薔薇が敷き詰められたボートの上で、
まるで眠っているようだったと書かれていた。

そのあとにも、同じような状況で3人の少女が命を落としていた。
世間では「花舞う連続殺人事件」と呼ばれていたらしい。

そして、同じ日付にもうひとつの記録があった。

俺への腎臓移植。

医療記録には提供者の名前はなかった。
けれど、祖父母のメモに小さく書かれていた。

「プレゼントのように届いた腎臓。」

胸がざわついた。
そんな言い方、あるかよ。

どうしても確かめたくて、俺は両親を問い詰めた。

しばらく沈黙が続いたあと、
母さんが泣きながら言った。

「殺された子の腎臓よ。…あなた宛に届いたの。あなたを助けてくれたの。」

目を閉じる。
夢だと思いたかった。

でも――違う。

万華鏡が見せた映像は、ただの幻じゃない。
“過去に起きたこと”だと、体が知っていた。

気づけば、寝汗が背中に張りついていた。
呼吸が浅くなる。

羽瑠は、俺のために死んだのか?
そんなこと、絶対に許さない。

胸の奥で、静かに何かが固まる。

俺がどうなろうと構わない。
あの日の未来を、もう一度繰り返させたりしない。

絶対に、そんなことさせない。
羽瑠を奪わせない。

万華鏡の中で揺れていた“月の満ち欠け”が、
ゆっくりと脳裏に浮かんだ。