万華鏡は月を巻き戻す


「じゃあ、お祝いしてもらったし、寝るかな。」

『切っちゃうの?』

「切るよ。明日学校じゃん。」

『えー、寝落ち電話したかったのに。』

「なにそれ?」

『どっちが先に寝るか、ってやつ。
恋人同士がする、あま〜い時間。』

「ふっ、じゃあ私の負け。おやすみー。」

『うわ、やる気ないな。』

「っていうのは冗談で。
……少し眠れないから、何か話してよ。」

『どうしたの?俺が恋しい?』

「そういうことにしておく。」

ほんの一瞬、沈黙が落ちる。

『……ねぇ、羽瑠。』

「なに?」

『無理して元気なふりしなくていいよ。
眠れないって言えるだけで、十分えらい。』

優しい声が、耳の奥にじんわり染み込む。

「……たまにね。夜になると、いろいろ考えちゃうの。」

『そっか。
でもさ、今は俺がいるよ。
電話越しでも、ちゃんとそばにいる。』

朔の声は、いつもより低くて、包み込むみたいに柔らかい。

『眠れないなら、眠れるまで話す。
羽瑠が安心して目を閉じられるまで。』

胸の奥がきゅっと熱くなる。
不安が完全に消えるわけじゃないけれど、
朔の声が、それを少しだけ遠ざけてくれる。

「……うん。もう少し、話して。」