万華鏡は月を巻き戻す


ブルブル、と枕元のスマホが震えた。
誕生日前日の夜、22時半。そろそろ寝ようと布団に潜り込んだところだった。

『もしもし、まだ起きてる?』

「今寝ようとしてた。」

『え!日付変わるまで起きててよ。
一番におめでとう言いたくて電話したのに。』

少し拗ねたような息が、受話口からふわりと漏れる。
普段より幼く聞こえる声に、胸の奥がくすぐったくなる。

「じゃあ、眠くなるまでね。」

『いいよ。』

「何話す?」

『俺昨日さー』

他愛もない話が、思った以上に楽しくて。
笑ったり、相槌を返したりしているうちに、眠気はすっかりどこかへ消えていた。

気づけば、もうすぐ24時。

『あ、カウントダウンするね!俺!』

「なんか年越しみたい。」

『年越しより盛大イベントでしょ。羽瑠の誕生日なんだから。』

大げさに言う朔の声が、妙に嬉しくて、思わず頬がゆるむ。

『…10.9.8…』

カウントが進むにつれ、胸がじんわり温かくなる。
朔の声が、いつもより近く感じた。

『3.2.1…
17歳のお誕生日おめでとう!!羽瑠。』

「ありがとう。
でも私、生まれたの夕方らしい。」

『あ、そうなんだ。
じゃあまた夕方にもう一回言うよ。』

一瞬の静寂。
そのあと、少し照れたように息を吸う音。

『でも、一番に言えてよかった。』

その言葉は、深夜の静けさよりもずっと優しく響いた。