万華鏡は月を巻き戻す


気づけば6月に入っていた。
湿気を含んだ熱気が肌にまとわりつき、髪の根元までじっとりと重い。
息を吸うたび、胸の奥にぬめるような重さが沈んでいく。

——夏祭りまで、あと2ヶ月弱。
あの日、私は“殺されるかもしれない”。

その事実だけが、じわじわと背中を冷やしていた。
汗ばむ首筋に、ひと筋だけ冷たいものが落ちるような感覚。

「次は……速川 湊。」

「私、その人と話したことないけど。」

「でも、羽瑠のことチラチラ見てる。ほら。」

朔が身を寄せてくる。
近づいた拍子に、彼のシャツから洗剤の匂いがふっと漂った。

「ちょっと近い。」

「見せつけてるの。俺の彼女ですって。」

「違うけど。」

「遊園地いったのに?」

「いったけど……ね。」

「俺は楽しかったよ。遊園地デート。」

朔がニヤリと笑う。
整った目元が柔らかい。本当綺麗な顔してる。

「私も、楽しくないとは言ってない。色々あったけど。」

「そうだね。」

ふっと、生ぬるい風が吹き抜ける。
アスファルトの匂いと、遠くで鳴くカラスの声が混じり合い、夏の入口を告げていた。