万華鏡は月を巻き戻す


放課後、二人で喫茶店にやってきた。
窓際の席に座ると、夕方の光がテーブルに柔らかく落ちる。

「何か食べる?」

朔がメニューをめくりながら聞いてくる。
その声が、店内の静かなBGMに溶けて心地いい。

「うーん、ホットケーキ!」

「いいね。じゃあアイスと生クリームもトッピングして、半分こしない?」

「いいよ。」

注文を終えると、ふわっと甘い香りが漂ってきた。
焼きたてのホットケーキを二人で分け合い、アイスカフェラテを口に含む。
冷たさと苦味が、甘さを引き締めてくれる。

「さて、本題だけど…」

朔の声が少しだけ低くなる。
私はフォークを置き、自然と姿勢を正した。

「まず、羽瑠が殺されたとされるのは8月13日。夏祭りの日。」

「うん。」

「だけど、発見されたのは……その一週間後。8月20日。」

淡々と話す朔の横顔は、いつもより大人びて見えた。

「場所は…花見公園の池のボートの上。
まるで眠るように、真っ赤な薔薇が敷き詰められていたらしい。」

「なにそれ! こわ!!」

思わず声が大きくなる。
店内の空気が一瞬だけ揺れた気がした。

「うん。だから怨恨っていうよりは……愛、か執着のような気がする。」

「そっか。」

胸の奥がざわつく。
知らない誰かの感情が、自分に向けられていたという事実が、じわりと重くのしかかる。

「死因は?」

「絞殺。
首には赤いリボンが巻かれていたって。」

「……」

言葉が出なかった。
喉の奥がきゅっと締めつけられる。

「ごめん。怖いよね。」

「うん。」

素直に頷くと、朔はそっと私の手に触れた。
その温度が、少しだけ現実に引き戻してくれる。