万華鏡は月を巻き戻す

「こわい?」

彼がそう聞いた瞬間、風がひとつ吹き抜けた。
屋上の空気が少しだけ冷たく感じる。

「うーん、よくわからないんだよね。
私が誰かに殺されるかもしれない未来があるって……。
私、そんな恨まれることしたのかな?」

言葉にすると、胸の奥がざわつく。
怖いというより、現実味のない夢を語っているような、足元がふわっと浮く感じ。

「どっちかっていうと……執着かもしれないね」

彼はフェンスにもたれ、視線を遠くに投げた。
その横顔はいつもより真剣で、軽い冗談を挟む余裕もなさそうだった。

「執着?」

「うん」

短い返事なのに、妙に重い。
風が止まり、二人の間に静けさが落ちる。

「ねぇ、私はどうやって殺されたの? 死体はどこで?
なんで?」

自分でも、聞きながら胸がきゅっと縮むのがわかった。
でも知らないままのほうが、もっと不安だった。

「それ聞く?」

彼は眉を寄せ、少しだけ困ったように笑う。

「聞かないとわからなくない?」

私の声は思ったより強く響いた。
自分のことなのに、知らされないのは耐えられない。

「正直、不安を煽るだけだと思うんだけど。」

「それでも、私のことでしょ?」

言い返すと、彼は一瞬だけ目を伏せた。
その沈黙が、風より冷たく感じた。