万華鏡は月を巻き戻す


ピンポーン。

来た。透さんだ。

私と朔は顔を見合わせ、息をひそめて階段をそろりと降りる。
玄関の向こうから聞こえる声に、胸がざわついた。

「姉さん今日はありがとう。はい、これ……お土産」

「ありがとう、透。
そうだ聞いてよ!
羽瑠がね、イケメンの彼氏連れてきたの!」

「ん?あ、その人見たよ。水族館デートしてたよ」

「やだ!ほんと!」

二人は楽しそうに笑いながらリビングへ入っていく。
その明るさが、逆に不安を煽った。

「……ねぇ、どうするの?」

小声で聞くと、朔は真剣な顔で私を見た。
その目は、状況を冷静に見極めようとしている。

「うーん……とりあえず、もっと近くに行こ。」

その声は落ち着いているのに、どこか張りつめていた。

二人でそっと扉の前に立ち、耳を澄ませる。


「透……あなた、本気なの?」

母の声は軽く笑っているようで、どこか探るようでもあった。

「本気だよ。」

透さんの声は低く、迷いがなかった。
その一言に、空気がわずかに震えた気がした。

「それにしたって……こんな姿見たら羽瑠だって、なんていうか。」

……私?

朔と顔を見合わせる。
朔の眉がわずかに動き、表情が固くなる。

「それでも、俺は……諦めないよ。」

その声は、冗談でも軽口でもなかった。
胸の奥に重く沈む“覚悟”の音がした。


朔が小さく息を吸う。

「……行こう。直接対決。」

「え、ほんとに?」

「うん。逃げても、余計ややこしくなるだけだよ。」

朔は迷いなくドアノブに手をかけた。
その横顔は、どこか戦いに向かう人のようだった。

そして――
私たちはリビングの扉を開けた。