万華鏡は月を巻き戻す

二人でファーストフードを持ち帰り、朔のアパートに入った。

「うわ、ポテトってこんな美味いの?」

朔は目を丸くし、まるで初めて文明に触れたみたいに感動している。

「え?食べたことないの?」

「うん、初めて。」

「へぇー。みんな食べてるものだと思ってた。」

「そっかー。
世界には美味しいものがいっぱいあるんだな。」

「大袈裟だなー。」

笑い合っているのに、胸の奥がざわつく。
“初めて”という言葉が、朔の存在を現実から少し浮かせているように感じた。

朔は手を拭き、表情を切り替える。
さっきまでの柔らかさがすっと消え、空気がわずかに張りつめた。

「さて、本題に入ろうか。」

その声に、背筋がひやりとする。

朔は押し入れから模造紙を取り出した。
私がこの前、うっかり開けてしまった場所だ。

紙の端が擦れる音が、部屋の静けさに妙に響く。

「そこのテーブルのゴミ、どかしてくれる?」

「わかった。」

私は紙袋やカップをまとめ、ゴミ袋に押し込む。
その間、朔は無言で模造紙を広げる準備をしていた。
横顔は真剣で、どこか遠くを見ているような目をしている。

テーブルの上を空けると、朔は模造紙を広げようとした手をふと止め、こちらを見据えた。

「ねぇ、この先聞く覚悟ある?」

「あるよ。教えて。」

「本当は、君が知らないうちに進めたかったんだけどなー。
……上手くできなかった。」

「…それで、どうして朔は未来から来たの?」

朔はふっと息を吸い、真っ直ぐに私を見た。

ぱさり、と紙が開く音。
その瞬間、空気が変わった気がした。

まるで、ここから先はもう戻れない場所に踏み込むような――そんな予感。