万華鏡は月を巻き戻す

二人で病院を出る。
外の空気は少し冷たくて、胸の奥のざわつきを余計に際立たせた。

「ねぇ……朔はさ。何者なの?」

自分でも馬鹿みたいだと思う。
でも、聞かずにはいられなかった。
怖いのに、知りたい。
知りたいのに、聞いたら戻れなくなる気がする。

朔は立ち止まり、ゆっくりとこちらを向く。

「俺さ……未来から来たって言ったら、信じる?」

その声は冗談じゃない。
軽さも、笑いも、逃げ道もない。
ただ真っ直ぐで、痛いほど静かだった。

風が吹き抜け、空気がひやりとする。

「……ほんと?」

「ほんと」

「じゃあ信じる」

「信じるの?」

「だって……信じてほしいんでしょ?」

言ってから、自分でも驚いた。
本当は怖いのに。
信じたら、何かが変わってしまうのに。

朔は一瞬だけ目を伏せ、困ったように笑った。
その笑顔は、嬉しさよりも“諦め”に近かった。

「ねぇ、教えて。
どうして未来から来たの?」

「うん。
とりあえず……俺の知ってることを全部話すよ。
ここじゃ目立つし、俺の家に行こう」

「うん」

返事をした瞬間、胸の奥で何かが静かに軋んだ。
“未来から来た”という言葉よりも、
朔の目に宿る、説明できない“哀しさ”の方がずっと怖かった。

まるで――
これから聞く話が、私の世界を変えてしまうと知っているみたいな目だった。