万華鏡は月を巻き戻す


「ここだ……」

黒木病院の建物を見上げる。
何度か来たことがあるはずなのに、今日はやけに大きく見えた。
胸の奥がざわついて、足が少しだけ重い。

受付に向かい、私は声をかけた。

「あの、面会に来たんですけど。」

看護師さんが私を見て、少し怪訝そうに眉を寄せる。
平日の昼間、制服姿の高校生。
怪しまれて当然だ。

「お名前は?」

「えっと……」

どう答えようか迷ったそのとき――

「あれ、羽瑠ちゃん。どうしたの、こんな時間に?」

落ち着いた声が横から割り込んだ。
メガネ越しの涼しげな目元。
蓮水先生だ。

「あ、蓮水先生。お爺ちゃんに会いに来ました。」

「平日の昼間から?」

「はい。」

「サボり?」

「まあ……そんなとこです。」

視線を逸らすと、先生はふっと笑った。

「そっか。学生にはそういう時間も大事だね。
いまなら中庭で散歩してるんじゃないかな。」

「ありがとうございます。」

深く頭を下げると、胸の奥が少しだけ軽くなった気がした。

――お爺ちゃんと話したい。
ただそれだけで、気持ちが落ち着く気がする。