万華鏡は月を巻き戻す


わからない……。
なんだったんだろう。

朔は何者なの?
私に近づいた目的は?
あの言葉は本気?
それとも全部、作り話?

考えれば考えるほど霧が濃くなって、何ひとつ掴めない。

結局、何もわからないまま学校に来た。

朔は――いた。
教室の中心で、友達に囲まれて、いつも通りの顔をしている。
でも、いつもなら私のところに真っ先に来るのに、今日は来ない。
目が合っても、気まずそうに笑うだけ。

その笑顔が、胸に引っかかった。
“距離”を置かれているようで、息が詰まる。

「ねぇ、七瀬くんと別れたの?」

みなが唐突に聞いてきた。

「そもそも付き合ってないから。」

「へぇー。じゃあ喧嘩?」

「うーん……わかんない。」

「そっか。でもいいの?ほっといたらすぐ取られちゃうよ。イケメンだし。」

「知らない。……ごめん、みな。私、早退する。」

「え、今来たばっかじゃん!」

「ごめん。また。」

鞄を掴んで、教室を飛び出した。

授業を受ける気にもなれない。
でも、このまま家に帰ったらお母さんに何か言われる。
それも今は耐えられない。

ふと、お爺ちゃんの顔が浮かんだ。
穏やかで、優しくて、話していると時間がゆっくり流れる人。
いまは入院している。たしか……黒木病院。

スマホで住所を調べる。

ちょうど電車がホームに滑り込んできて、私はそのまま乗り込んだ。

揺れる車内で、胸の奥が静かに軋んでいる。
何かが、ゆっくりと壊れ始めているような感覚。