万華鏡は月を巻き戻す

「あの。」

「なに?」

「羽瑠って彼氏います?」

黒木は、はぁっと呆れ気味にため息をついた。

「それはさ、本人に聞きなよ。」

「いやだって!これで結婚とかしてたら、俺立ち直れないんですけど!!」

「大丈夫だよ。いまはいないよ。まだ独身。俺の知っている限りは。」

「本当に?」

「それよりも。
今度の◯日、飲み会顔出しにきな。」

「わかりました。
ご指導よろしくお願いします!黒木先生。」

「はいはい。
それより…なんで医者になったの?」

そう言われて視線をおとす。

「俺を助けてくれたのは…羽瑠だけど。
それを形にしてくれたのは、医者だったから。」

「ふーん。」

少し歩き出してから、俺はふと立ち止まった。

「あ、黒木先生。」

「なに。」

「これからは俺も…貴方の話し相手になります。
俺が生きてるのも貴方のおかげだから。
でも…もしも羽瑠に危害を加えるつもりなら、
俺が貴方を殺します。」

黒木は一瞬だけ目を細め、
それから淡々と返した。

「これから医者になるやつのセリフではないね。」

「そうかもですね。
そうならないように頼みますよ。」

黒木巧――
かつて羽瑠を殺した男。

でも、未来は変わった。

羽瑠は生きている。
俺も生きている。
黒木も、もう“あの日の黒木”ではない。

きっと、
これからは良い方向に向かうはずだ。

俺はそう信じて、
まっすぐ歩き出した。