万華鏡は月を巻き戻す

変な人…本当に死神だったりして。

そう思って目を閉じた。

死神に会ってから3日後、目を覚ますと
頬が濡れていた。
泣いた記憶なんてないのに、涙だけが残っていた。

そして――

俺の腎臓は機能が回復していた。

医者たちは口々に「奇跡だ」と言った。
まるで新しい腎臓に生まれ変わったみたいだ、と。

でも、俺は何も思い出さない。

胸の奥にぽっかり穴が空いたまま、
何か大切なものを落としたまま、
それでも時間だけが進んでいった。

それから、家族と海外で過ごした。

勉強もスポーツも人並み以上にできて、
飛び級で大学にも入学した。

けれど――退屈だった。

何をしても心が満たされない。
何かを探しているのに、それが何なのか分からない。

そんな中で、17歳になった俺は
亡くなった祖父母の家を片付けるために日本に帰ってきた。



8月13日。
夏祭りの夜。
遠くで花火が上がり、空が淡く光る。

古い押し入れの奥から、
小さな筒が転がり落ちた。

「これ…万華鏡?」

手に取って、思わず覗いた。

その瞬間――

視界が白く弾け、
まるで走馬灯のように映像が流れ込んできた。

羽瑠を救うために17歳の羽瑠に会いに行ったこと。
一緒に行った水族館。
遊園地。
寝落ち電話。
羽瑠の笑顔。
浴衣姿。
泣き顔。
名前を呼ぶ声。

そして、ようやく思い出した。

「羽瑠…。」

生きてるのか。
今どこにいる。
俺は――何をしていたんだ。

待って、腎臓。

Tシャツを捲ると、
いままでなかったはずの手術痕が
うっすらと浮かび上がっていた。

胸が熱くなる。
息が震える。

「…羽瑠。」

ようやく、
俺は“生きている理由”を思い出した。