万華鏡は月を巻き戻す


私は風邪薬、ゼリー、スポーツドリンクを袋に詰めて、
教わった住所へ向かった。

「ここか……。」

古いけれど清潔そうなアパート。
外廊下に夕方の風が吹き抜ける。

メールを入れたけど返事はない。
寝てるのかな…。

とりあえず来たからには、と
ピンポーンと押してみる。

しばらくして──

ガチャッ。

「は、羽瑠!? なんで?」

驚いた顔の朔が立っていた。
頬が少し赤くて、目の下にうっすらクマがある。

「心配で……メール見てない?」

「あ、電源切れてたかも。
ちょっと待って少し片付けるから。」

朔はふらっと中に戻り、
ガサゴソと音がする。

「中、入る?」

「あ、うん。」

靴を脱いで部屋に足を踏み入れる。

思ったよりずっと綺麗だった。
余計なものがなくて、
どこか“生活感が薄い”感じがする。

「そこ座って……お茶いれる。」

「いいよ。
病人なんだから座ってなよ。」

「いや、大丈夫。もう治りかけ。」

そう言ってキッチンに立つ朔の背中は、
いつもより少しだけ細く見えた。