「例の彼とは上手くいってるの?」
黒木が何気ない調子で聞いてくる。
「別れました。」
「へぇー、振られたの?」
「振ってしまいました。」
「へぇー。良いご身分だね」
黒木が軽く笑う。
「本当ですよね。」
「何が不満だったの?」
「不満なんてないですよ。
優しくて、大人で、いつも私のこと考えてくれてた。」
「顔もいいし、大手勤務、周りからの信頼も厚いし、優良物件だったのにね。」
黒木が淡々と付け足す。
「そうですね。
殺されるかもってヒヤヒヤすることもなかったです。」
「面白い冗談だね。じゃあどうして?」
黒木の目が、少しだけ鋭くなる。
「どこに行っても何をしても……朔を探してるんです。
あの時はこう言ってたな、とか。
朔だったら……って」
朔だったら、これ見てなんて言うかな。
どうやって私のこと抱くのかな。
どんな顔で笑うのかな。
胸の奥がじんわり痛む。
「それはお気の毒。」
黒木は淡々と言う。
「ほんと最低ですよね。
あー。もう私なんてその辺の石ころ以下だ。」
「そんなことは言ってないよ。」
黒木は静かに言う。
慰めるでもなく、突き放すでもなく。
ただ事実だけを告げるように。
その温度のなさが、逆に胸に刺さった。


