万華鏡は月を巻き戻す

「そうだったんですね。」

自分でも驚くほど落ち着いた声が出た。

速川先輩は、少し息を吸ってから言った。

「だから…今度こそ。
 俺と付き合ってもらえますか?」

「え?」

思わず瞬きをする。

「あ、ごめん。いきなり“付き合って”は早いよね」
先輩は慌てて手を振った。
「まずは……友達からどうかな?」

その言葉に、胸の奥がざわつく。

“友達から”
その言葉は軽いはずなのに、
なぜか胸の奥が痛んだ。

――朔はもういない。

あの日、未来へ帰ってしまった。

それでも、時間は進む。
仕事もある。
生活もある。
笑わなきゃいけない日もある。

でも、心のどこかに朔がいる。
消えない。
忘れられない。

だけど――
このまま立ち止まっていても、だめだ。

「……とりあえず、友達からなら。」

気づいたら、口が勝手に動いていた。

速川先輩はぱっと顔を明るくして、
「ありがとう」と小さく笑った。

そのまま連絡先を交換して、
店の前で軽く会釈して別れた。