万華鏡は月を巻き戻す

瞼をゆっくり開ける。
真っ白な天井がぼやけて見え、光が滲んで世界の輪郭がゆっくり戻ってくる。

――いたい。

身体の奥が重く、鈍い痛みがじわじわと広がっていた。
呼吸をするたび、胸の奥がかすかに軋む。

「おはよう。」

柔らかい声が耳に触れる。
視線を向けると、白衣の影がこちらを覗き込んでいた。

「蓮水先生。あ、黒木先生か。
朔は……!?」

声が震えた。
胸の奥がざわつき、息が浅くなる。

「消えたよ。手術が終わって、さっきね。
……ファンタジーすぎて頭痛いわ。」

黒木は額を押さえ、苦笑した。
その表情には疲労と、現実離れした出来事への戸惑いが入り混じっている。

「でも……痛い……。
腎臓、わたせたってこと……?」

震える手で自分の腹部に触れる。
包帯越しに、じんわりとした熱が伝わってきた。

「うん、そうなるね。」

黒木は淡々と答える。
けれど、その目の奥には言葉にできない感情が揺れていた。

「……はあー……よかった……。」

安堵が胸の奥からこぼれ、涙がにじむ。
視界がまた滲んで、天井の白がゆらいだ。

「これ、君のカバン。」

黒木がベッド脇に置いていたカバンを差し出す。
慌てて飛び出したときのまま、中身が少し乱れていた。

「これ……『恋する逆さまの月』。」

朔がくれた本。
あのとき、胸がいっぱいで、カバンにそのまま押し込んだんだった。

そっと取り出し、ページをめくる。

ぱらり。

一枚の紙が落ちた。

「……なにこれ?」

震える指で拾い上げる。
紙はほんのり温かくて、まるで朔の体温がまだ残っているみたいだった。

そこに書かれていたのは――

「……死ぬまでにしたいリスト……。」

胸がぎゅっと締めつけられ、息が止まりそうになる。
文字が滲んで、紙の上で揺れた。