万華鏡は月を巻き戻す


「僕が君を殺さない保証あると思う?」

黒木の声は低く、静かで、どこか試すようだった。
蛍光灯の光が彼の横顔を照らし、影が頬に落ちる。

「じゃあ契約する。」

私は震える声で言い返す。

「契約?」

黒木が眉をひそめる。
その目は、興味と警戒が入り混じっていた。

「もし、腎臓移植できたら、私は貴方が人を殺したくなったり、一人で寂しいときに話し相手になる。
どんな時でも。」

言いながら、胸が痛くて、息が詰まりそうだった。
でも、朔を助けたい気持ちがそれを押しのける。

「なにそれ。」

黒木は呆れたように笑う。
けれど、その笑みの奥に一瞬だけ揺らぎが見えた。

「私 お姉さんに似てるんでしょ?
この先、生きてたらお姉さんが成長してるように見えるでしょ?
それって貴方にとったら悪くないでしょ?」

黒木の目が細くなる。

その瞳の奥に、過去の影がちらりと浮かんだ。

「そうだね。」

短く答える声は、どこか諦めにも似ていた。

「はあーわかった。
死んでも文句言わないでね。」

黒木は肩をすくめ、白衣のポケットに手を突っ込む。
その仕草は投げやりなのに、どこか覚悟めいていた。

「いうから。
絶対枕もとにたつから。」

私が言うと、黒木は一瞬だけ目を丸くし、すぐに苦笑した。

「ちょっと何やってるですか。」

突然、扉が開き、白衣を着た女性が顔を出す。
驚いたように目を見開いている。

「ちょうど良かった。
緊急手術する。
手伝って。」

黒木は淡々と告げる。
その声には、もう迷いがなかった。

「今からですか?」

「ああ、はやく。」

黒木の声に焦りが混じる。
朔の呼吸がさらに浅くなっていくのが分かる。

「えー。なんか違法な匂いがするんですけどー。」

「手当だすから。」

「わかりましたよ。忘れないでくださいね。」

ため息をつきながらも、すぐに準備に向かった。
その背中は頼もしく、緊張感が一気に走る。

黒木は朔を見下ろし、
そして私を見た。

その目には、
さっきまでなかった“決意”が宿っていた。