「そんなの、狂ってる……。」
私が震える声で言うと、黒木は静かに笑った。
「そうだね。姉さんが死んだ日から、僕の人生は狂ってる。
医者として人を助けても、何も感じなかった。」
朔が一歩前に出る。
「あんたは……今、羽瑠を奪おうとしてる。
やめろ。絶対に後悔する。」
黒木は首をかしげる。
「それはどうかな。やってみないと分からないよ。」
朔の目が鋭く光った。
「いや、分かる。
俺は未来から来たんだ。
あんたは羽瑠を失っても満たされない。
渇いた心を埋めようとして、羽瑠のあと――3人の少女を狙う。」
黒木の表情がわずかに揺れた。
朔は続ける。
「何も満たされないまま、ただ壊れていくだけだ。
黒木雅信はそれに気づいていた。
だからあんたを隠した。戸籍から消して、海外に飛ばした。」
空気が凍りつく。
「そして俺は……気づけなかった。
あんたが“犯人”だったこと。
見逃したんだ。」
黒木の呼吸が浅くなる。
朔はさらに踏み込む。
「ずっと恨まれ続ける。
寝ても覚めても、あんたの罪は消えない。」
黒木はかすかに笑った。
「未来って…面白いことを言うな…。」
朔は静かに言った。
「あんたの言葉の意味を、やっと理解したよ。」
黒木の目がわずかに見開かれる。
朔は続けた。
「『動かない蝶は、美しくないね。
捕まえて壊してしまったことを、僕はきっと忘れないだろう。』」
黒木の表情が固まる。
「子供の俺は、その言葉の意味が分からなかった。
でも今なら分かる。
それは“後悔”だ。
あんたが壊してしまったものへの、消えない後悔。」
黒木巧は、完全に動きを止めた。


